想いの連鎖

★2018年ホワイトデーSS。クレンズ視点。

*****

  アールグレイの紅茶をゆっくり飲みながら、私はノワールさんを待っている。
「バレンタインのお返しがしたい」というノワールさんに誘われて、この喫茶店で待ち合わせることになったのだ。

  「なぁ、クレンズ。ノワールに本命の相手、教えるのか?」

  向かい合うようにして座っていた護衛のゾーイが、ティースプーンでコーヒーとミルクを混ぜながら首を傾げる。
  『ホワイトデーのお返しを豪華にするからバレンタインの本命の相手を教えてほしい』  ――ノワールさんにそう言われたのは先月のこと。
あの時、「考えておきます」と言ったけれど、言うか言わないか正直迷っている。

  「お返しもらってから考えようかな」

  「そっか。別に無理して言う必要もないから気楽に、ね」

  「うん。ありがとう」

  ゾーイに微笑んでティーカップに唇を寄せる。
ふと喫茶店の入口に視線を送ると扉の前にノワールさんが立っていた。
手を振るとこちらに気付いて私達のテーブルまで歩み寄ってきた。

  「お待たせ、クレンズ。ゾーイ」

  ノワールさんが片手を上げて椅子へと座る。

  「バレンタインのお返し。気に入ってくれるといいんだけど」

  どうぞ、と手渡されたのは『Petit(プティ)』と書かれた薄緑色のショップ袋だった。

  「ノワールさん! もしかしてこれってあの有名な洋菓子店『Petit(プティ)』のクッキーですか……?」

  「大正解!」

  ノワールさんがニヤリと悪戯な笑みを見せた。
Petit(プティ)のクッキーは美味しいと評判で、1日10個しか販売されない幻の一品なのだ。
  先日ジュンさんとゾーイと一緒に「一度食べてみたいね」と話していたお菓子だったので、嬉しさがこみ上げる。

  「どう? 気に入ってくれた?」

  「はい! とっても!」

  「じゃあ、本命の相手、教えてくれる?」

  幻のクッキーをゲットした嬉しさのあまり、肝心なことを忘れていた。
お返し次第で言うか言わないか決めようと思っていたから、今回のノワールさんのお返しならば文句なしで合格。
つまり本命を言わなければならない。
でも、やっぱり好きな人を言うのは恥ずかしい。
ならば――……。

  「私の本命が誰か当ててみて下さい!」

  「おおっとそうきたか」とノワールさんが悪戯な笑みを見せて、額を手で押さえる。
「一発で教えてくれると思ったんだけどなぁ」とぼやくノワールさんに「ごめんなさい」と心の中で謝る。
  もしノワールさんがあの人の名前を言ってくれたら、素直にそうだと答えよう。
私はそう決めて、ノワールさんの返事を待った。
ノワールさんは顎に手を当てて少し考える素振りをした後、にやりと笑ってこちらを真っ直ぐに見た。

  「リガード、だろ?」

  ドクンと心臓が大きく脈を打つ。それと同時に顔全体が次第に熱を帯びていく。
まさか一発で言い当てられるなど、思いも寄らなかった。
私は観念してゆっくりと首を縦に振った。

  「やっぱりノワールさんはすごいです!」

  私の大好きな人を一発で当ててしまったノワールさんに素直な気持ちを伝える。
情報屋さんだから、私の心の中も読めてしまうのかなぁ、なんて考えてしまった。
ノワールさんは私の返答に少しだけ驚いたような顔をして考え込む。
そして――……。

  「俺の何がすごいと思う?」

  ノワールさんの真紅の瞳が真っ直ぐに私を射抜く。
思いも寄らない、その真剣な眼差しに少し慌ててしまう。
勘が鋭いとか凄い情報網だとかいろいろ迷ったけれど、私は恐れることなく自信を持って答える。

  「優しいところです!」

  私は目を閉じて心の底から笑う。
ノワールさんはきっと私の本命を無理に聞く気はなかったのだろう。
私が素直に本命を打ち明けるのを待っていてくれたのだと思う。
確証はないけれど、何となくそう思ったのだ。
再び目を開けた時、ノワールさんは満面の笑みで私を見ていた。

  「バレンタインのお返しに来たのに、逆にいいもの貰っちゃったな」

  ノワールさんが本当に嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなって微笑み返す。
やっぱりノワールさんは優しい人だ。
いつも私達を見守ってくれているノワールさんに感謝の気持ちを込めたチョコレートをあげて良かったなぁと心の底から思えた。
『Petit(プティ)』のクッキーも嬉しいけれど、何より私の気持ちを大切にしてくれるノワールさんの気持ちが嬉しくて。
この穏やかな時間がいつまでも続いて、そしていつの日か私の大好きなリガードさんに「好きです」と伝えられたらいいな。
  コーヒーをすするノワールさんを眺めながら、私はそっと未来の私に想いをたくした。

UP:2017/02/25

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